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『オデッセイ』 - 知識と技術とユーモアで窮地を乗り切れ!人間賛歌のスペースディスコ映画!

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原題:The Martian
監督:リドリー・スコット
製作年:2015
製作国:アメリカ

あらすじ

火星での有人探査の最中、嵐に巻き込まれてしまったワトニー。仲間たちは緊急事態を脱するため、死亡したと推測されるワトニーを置いて探査船を発進させ、火星を去ってしまう。しかし、奇跡的に死を免れていたワトニーは、酸素は少なく、水も通信手段もなく、食料は31日分という絶望的環境で、4年後に次の探査船が火星にやってくるまで生き延びようと、あらゆる手段を尽くしていく。

前置き

宣伝がうまくいったのか、日本でも大ヒット中の宇宙映画。
ゼロ・グラビティ』『インターステラー』に引き続き、ここのところ盛り上がってますね、宇宙。(重力波も観測されたことだし)
IMAXカメラだったり、3D技術のだったりと撮影技術や表現技術の進歩が宇宙を宇宙らしく表現できるところまで来たってことなのかなーって思ってます。

キャストとスタッフ

火星に取り残される主人公マーク・ワトニー役は、なんかちょっと前も別の惑星に取り残される役やってたような気がする、マット・デイモン
プライベート・ライアン』でも取り残されて救出される役でしたね。
あと、マット・デイモンといえば天才役が多いってイメージ。今回も植物学者の宇宙飛行士ってことでやっぱり天才役です。
そう考えると当て書きかってくらいピッタリの役。

ワトニーを置いて火星を発ってしまうクルーにはジェシカ・チャステインマイケル・ペーニャケイト・マーラ、セバスチャン・スタン、アクセル・へニー。
ジェシカ・チャステインは軍人にして隊長ってことですっかり強い女ってイメージがついてきた印象。
ケイト・マーラはちょっと前に宇宙行ってなかったけ
クルー側のユーモア担当のマイケル・ペーニャは相変わらずおいしい役。顔からしていいやつだなーってのがにじみ出てました。

監督は『エイリアン』『ブレード・ランナー』のリドリー・スコット。なんと御年78歳。ここのところ、おじいちゃん映画監督の活躍が目に付きます。老いてなお狂気増す!
個人的には職人監督って印象が強くて、遍歴みたいなのがちょっと掴み難いなんて思ってます。
大まかな印象としては照明の使い方がカッコよくて、いつもテーマの軸に"コミュニケーション"ってのがある、って感じ。
これらは本作でもバッチリ当てはまってました。

ユーモア全開のポジティブ展開

悲壮感あふれる日本の予告編に反して、映画は全編通してユーモアに溢れており、終始明るい雰囲気が漂います。
火星に一人取り残され、わずかな食料で4年後の迎えを待たなくてはいけないという絶望的な状況にもかかわらずワトニーはユーモアを忘れません。
記録用のビデオに向かって話しかけたり、作業をしながら独り言言ったり・・・常にふざけた発言を繰り返して観客を笑わせてくれます。

他のクルーもワトニーと初めて交信ができた時に交わす会話や、再会した時の会話などちょっとキツいユーモアを交わしながら喜ぶシーンは笑いを誘うと同時に仲間たちとの絆を感じさせる名シーンでした。

また、ワトニーが火星で聴く音楽がそのまま映画のBGMになっているのですが、それがめちゃくちゃ明るい!
ワトニーにとって火星唯一の娯楽は他のクルーが残していった映画や音楽。
しかし、隊長が残していったのは自身の趣味である70-80年代ディスコミュージックでした。
絶望的な状況で流れる超明るい音楽と、それにブーたれるワトニーというシチュエーションはとても笑えて楽しい気分になれました。

宇宙とちょっと昔の音楽という組み合わせは『ガーティアンズ・オブ・ギャラクシー』を思い出させますが、本作でも同様に歌詞がストーリーや状況とマッチしていて、それもまた楽しいのです。
例えば、"Don’t Leave Me This Way"はタイトルがそのまま「私を置いていかないで」
火星の寒さに耐えるために熱源を探すシーンでは"Hot Stuff"という曲が流れ「熱いものが欲しいの」と歌い上げます。
しかし、何と言っても物語が最高に盛り上がっていくタイミングでデヴィット・ボウイの"Starman"が流れ出して「空の上でスターマンが待ってる。彼は俺らに会いたいんだ」という歌詞が聞こえた瞬間には思わず落涙してしまいました。

しかしこれらの超ポジティブな明るい演出はワトニーの孤独の裏返しであり、独り言を言い続けることで正気を保とうとするワトニーの悲哀が見え隠れしてきて、秀逸な演出だと思いました。

頭脳的かつ肉体的な説得力

火星や宇宙空間で起こる色々な物理現象については素人目に見てもちょっとおかしいかなって点はちらほらありました。
それは製作者側も十分承知の"映画の嘘"であり、映画内での説得力が十分にあったので全然気になりませんでした。

まず、登場人物は全員超エリートの天才ばかりなので会話の内容は難しい上にテンポも早く、こちらは彼らの理解に全然追いつくことができません。
しかし、そうした会話シーンの後に「その会話の結果どういうことになりました」というのを端的に映像で見せてくれるので結論だけはすぐに理解することができます。
すると自分もエリートたちの会話を理解した気分になって、なんとなーく説得させられてしまいます。

また、出演者たちの肉体的な説得力も素晴らしかったと思います。
ジェシカ・チャステインの高身長かつ引き締まった身体はまさに軍人然としていました。
しかし何と言っても今回はマット・デイモンでしょう。
序盤、治療のために宇宙服を脱いだ時に現れる筋骨隆々だけども適度に脂肪もついてる身体はまさに宇宙飛行士だという説得力に満ちていました。
また、後半に登場するガリガリにやせ細ったワトニーの身体は、序盤に見せる肉体との対比も相まって壮絶な火星でのサバイバルの苛酷さ。を否応なしに見せつけます。

そんな説得力を持ってこの映画が私に示してくれたのは技術への賛歌であり、人間への賛歌でした。

技術賛歌と人間賛歌

火星に取り残されたワトニーは持てる知識と技術を総動員して生き残る道を探します
植物学者である彼は火星の土に排泄物を混ぜ、土壌を作って芋を栽培します。
ローバーの走行実験を繰り返し、4年後の探査機の着地地点への移動計画も立てます。
私的な白眉は地球との交信をなんとか試みるシーン!
昔の探査機のカメラを使って地球に写真を送ることには成功するのですが、地球からのメッセージを受け取ることができません。
そこでワトニーが考え出した回転するカメラを使って地球からのメッセージを受け取る方法が工学系エンジニアなら大興奮の方法で、私は思わずスタンディングオベーションを送りたくなりました。

知識と技術を総動員するのはワトニーだけではありません。
地球のNASAの技術者たちは寝る間を惜しんで救出方法を考えます。(「残業だなんて悪夢だ!」と文句を言うのも忘れない姿勢は日本人は是非とも見習いたいところ)
ワトニーを取り残してしまったクルーたちも知識と技術を最大限に利用してワトニーの救出を試みます。

ワトニー始め彼らは全員技術オタクです。
合理主義で、情緒を理解しようとせず、レトロゲームファンタジー小説が大好きなオタクたちだからこそ、問題に淡々と取り組み、1つずつ課題をクリアーしていくことができたのです。
奇跡を起こすのは科学の力なんだぜと高らかに謳いあげるこの映画はまさにこれまで人間が積み上げ、これからも積み上げていくであろう知識と技術への賛歌でした!

また、この映画は命を全肯定していく、人間賛歌の物語でもありました。

NASAは政治的な駆け引きをしつつも、最終的には次回の火星探査計画の資材を無駄にしてワトニーを助け出す決断を下します。
前述した通り、たった一人を救うために何人もの技術者たちが寝る間を惜しんで検討・開発を急ぎます。
国際的な協力もあり、最終的には宇宙にいるクルーたちにワトニー救出計画が委ねられます。
彼らをそれを聞いた時に全く躊躇せずにワトニーを救出することを決めます。それをするためには彼らも大きなリスクとデメリットを背負うことになるのに意に介しません。

この、誰もがみんなたった一人の宇宙飛行士を助け出そうと努力するシーンで号泣してしまいました。
命はかけがえがなく尊いものだと示し、命を全肯定するこれらのシーンを見てあふれる涙を止めることなんて誰ができようか!

いつだって冷静沈着なワトニーが思わず感情を爆発させてしまうのは、"初めて地球と交信ができた瞬間"と"仲間と再会した瞬間"です。
命を肯定し、人とのつながりを強調するこの話はまさに人間賛歌の物語でもありました。

知識と技術を賛歌し命を肯定するこの映画、技術オタクじゃなくても人間であれば感動できるんじゃないでしょうか!
もちろん技術オタク垂涎の技術駆使映画としてもおすすめです!

参考リンク

ARES: live - YouTube
ワトニーたちが宇宙船で撮った記録映像集。

町山智浩 映画『オデッセイ』を語る
例によって例のごとく、映画評論家 町山智浩さんの映画紹介。