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明日に向って寝て!

映画とか、本とか、アイドルとか、旅行とか。基本的にネタバレします。

『牡蠣工場』 - 猫と子供と海に落ちた男。偶然の積み重ねから見えてくる世界の縮図。

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監督:想田和弘
製作年:2015
製作国:日本、アメリカ

あらすじ

「選挙」「精神」の想田和弘監督が、岡山県の牡蠣工場で働く人々の姿を記録したドキュメンタリー。ナレーションやBGMなどを排した想田監督独自のドキュメンタリー手法「観察映画」の第6弾として製作された。瀬戸内海に面した岡山県牛窓。かつては20軒近くあった牡蠣工場も過疎化などにより、今では6軒に減ってしまった。宮城県南三陸町で牡蠣工場を営んでいた渡邊さんは、東日本大震災で自身の工場が壊滅的な被害を受け、牛窓の地に移住し工場を継ぐこととなった。労働力不足のため、渡邊さんの工場でも中国からの労働者を雇い始めたが、言葉や文化の違いによるコミュニケーションの難しさに直面する。隣の工場では、早くも国に帰る脱落者が出た。牛窓という小さな町の日常から、グローバル化少子高齢化、過疎化、労働問題、移民問題、さらに震災の影響など、日本が抱えるさまざまな問題が浮かび上がる。(映画.comより)

観察映画

相田監督による、"観察映画"シリーズの最新作『牡蠣工場』
観察映画ってのは、想田監督が編み出したドキュメンタリー映画の様式で、事前に一切調査や打ち合わせをしない撮影方法や、音楽やテロップなどを使ったりせず映像そのものを加工しない編集方法が特徴的です。
そういったわかりやすい主張は徹底的に排されており、ただそこで起こったことが映し出されているだけなのに、観終わったあとはその雄弁さに驚かされるというものすごく面白いドキュメンタリー映画の様式です。
想田監督の過去作はどれもものすごく面白いので、超オススメです。(特に1作目の『選挙』から順に観ていくと、想田監督が被写体との距離感を徐々に変えていく様子がわかって興味深いです)

想田監督はテレビドキュメンタリーの、結論や主張ありきでそれに沿う映像だけを撮ろうとする姿勢に疑問を抱いたことから、この観察映画を始めたらしいです。
今回の『牡蠣工場』も撮ろうと思って撮ったものではなく、偶然撮れた映像を編集してまとめたもの。

奥さんの地元である牛窓の漁師たちが後継問題に悩んでいて、実際漁師の数は年々減っているという話を聞いた想田監督は、今のうちに日本の漁師たちの姿を撮影しておきたいと考え、カメラを回します。
しかし、たまたま牡蠣漁の時期に重なってしまい、魚を捕る様子を想像していた想田監督は面食らってしまいますが、そこは調査なし打ち合わせなしの観察映画。そのまま撮影を開始します。
そして、18日間の撮影の末に集められた素材の集大成がこの映画というわけです。

偶然の積み重ねが訴えるもの

想田監督の映画の魅力はなんと言ってもその「偶然撮影できてしまった映像」にあると思います。
カメラを回す想田監督にすら予想できなかったような(一切計画をせずに撮影するのだから当たり前ではるけど)ふとした瞬間の映像にハッとさせられることが多いんです。

本作でわかりやすいのは海に落ちたおじさんを漁師が助けるシーン。
撮影中、漁師の1人がたまたま海に落ちたおじさんを見つけて、救助に向かいます。
前後の脈絡のなさや周囲や映像そのものの慌てぶりからも完全にアクシデントだったことがわかります。
海に落ちたおじさんが意外と冷静に海に浮いてたり、感謝の仕方がやけに軽かったりするのがまた面白くて、ついつい笑ってしまいました。
こんなに映画的に面白いシーンが偶然撮れるだなんて、(安っぽい言い方ですが)奇跡的だと思います。

他にも、息子さんが「継ぐ気は無い」と話すのを聞いてる工場主さんの背中とか、漁師の奥さんとのたわいない会話とか、地元のおじさんの何気ない(だからこそ本音が混じってるのだろう)一言とか、やたらと家に侵入してこようとする猫とか。
映っているものは全て偶然撮れたもので、それらに一見脈絡はないのですが、全て通してみると何か大きな筋が見えるというか、全てが繋がっているように思えるというか。

それらの偶然が積み重なって、小さな町の小さな工場に世界の縮図を形成しているように見えてくるのです。

見えてくる様々な問題

個人的な話をするのであれば、牡蠣はあまり好きではありません。出身県に海はないし、今はIT系の仕事をしていて海の仕事とは全く関わっていません。
それでも、この映画における偶然の積み重ねが訴えてくるものはとても身近なものに感じました。

漁師の渡邊さんはもともと宮城県で牡蠣の養殖をしていた方でした。震災によって打撃を受け、牛窓に移り住み、跡継ぎがいないために閉鎖予定だった工場を引き継いだそうです。
別の工場では身体の調子が悪い工場主さんが息子さんに工場を譲りたいものの、65歳以下で譲ると相続税を払わないといけないので後数年は働かないといけないと嘆きます。

労働力として工場では中国人労働者を雇うのですが、そのための旅費や研修費は雇い主が負担します。しかし、雇った中国人が数日で仕事を辞めて帰国してしまったと愚痴を言う漁師が映ります。
地元の業者さんらしきおじさんは「中国人はすぐものを盗む。日本人のような常識がない」と言い、工場主さんは新しく来る中国人の機嫌を損ねるかもしれないからカメラを止めろと要請します。宮城では殺人があったから注意したい、と。

渡邊さんの工場でも労働力不足のため、大枚をはたいて初めて中国人労働者を雇うことになります。
雇った2人の中国人はほとんど日本語を話すことができず、工場の人達のコミュニケーションはかなり不全です。

と、ここまで挙げただけでも、震災、高齢化社会、労働力不足、地方の過疎化、TPP、グローバル化などなど、日本がこれから直面する、いや、今まさに直面している大きな問題が浮かび上がってきます。

個人的な経験から思った事(異文化コミュニケーション)

まずショックを受けたのは中国人労働者関連の映像でした。
前述した通り、地元の人の中にはあからさまな偏見を持っている人がいる事が映っています。
中国人労働者を受け入れる日のカレンダーには「中国来る」と書かれ、仕事の当番表には個人名ではなく「ちゃいな」と書かれていました

「なんて失礼で偏見に満ちた人たちなんだろう!相手は個別の人格を持った人間なのに!ちゃんと個人として向き合えば分かり合えるのに!」って憤慨しました。
その憤慨は私個人の経験からくるものでした。
私は少し前にヨーロッパ系の外資企業に勤めており、周りがほとんど外国人という環境で働いてました。
中国人も多くいたのですが、彼らはみんなとてもいい人たちで、一緒に観光旅行をするくらい良好な関係を築いていました。
だから中国人への偏見を口にする人たちを軽蔑すらしていました。

・・・が、映画の後半、その憤慨もまたある種の偏見であると思い知ったのです。

渡邊さんの元に働きに来た2人の中国人はほとんど日本語を話せず、分かり合うも何もそもそもコミュニケーションが成立しないのです。
思い返してみれば私が接していた中国人たちはヨーロッパ系IT企業に就職して日本に出張しにくる、エリートたちでした。
高度な教育を受け、英語を完璧に話し、思想はリベラルで仕事もできる。そんな彼らとコミュニケーションをとり、一定の相互理解をするのは容易でした。

ちょっとした意思疎通にすら苦労する漁師たちや中国人労働者たちを見て、気軽に「ちゃんと向き合って理解しあえよ」と思ってた自分を反省しました。

ただ、赤ちゃんをあやして笑う中国人労働者や、彼ら彼女らを名前で呼んで親しげに話す従業員さんの姿も確かにそこには映し出されていて、そう言ったところに希望を感じた事も確かです。

個人的な経験から思った事(一次産業、二次産業の行方)

高齢化や跡継ぎ問題で、日本の一次産業、二次産業は悲惨な状況にあるってのはなんとなく知ってはいましたが、きちんと理解してなかったんだってことがよくわかりました。
このままの状況が続けば日本から一次産業や二次産業は消えてしまうかもしれない、と思わずにはいられませんでした。

なんでこんな状況になってしまったのか、相田監督ご自身が舞台挨拶で1つの回答を語ってらっしゃいました。
私たちは勉強していい企業に入ってホワイトカラーになることが善であるという洗脳を受けて、それを受け入れてしまっているのでないかと。
社会的な価値観として、ホワイトカラーになることことが良い事とされてしまっていて、私たち自身もそれに染まってしまっているから農業や漁業を継ごうと思う人がいなくなってしまっているのではないかと。

地元を離れ、東京でホワイトカラーとして働いている私にはガツンと響く言葉でした。

第一次産業第二次産業はなぜか社会的な地位も、給料も低いです。
絶対的に間違っているはずなのに、それが当然なような気がしてしまっています。

じゃあ、給料上げれば解決かといえば、そうもいかないのは明白で。
給料を上げるには会社の売り上げも増やす必要があるので、必然的に売り物の値段は上がります。
現代人がちょっと高い食糧や日用品を、作っている人たちの給料のためだからと買うってのはちょっと想像できない。。。

このどうにもならない困窮した状況を生み出したのは安さだけを追い求めた一般消費者、私たち自身なんだって気付かされてしまって、結構ズーンときました。

ITエンジニアの想像

たまに想像します。
ゾンビウィルスが蔓延したり、猿が知能を持って人類と戦争になったり、宇宙人が攻めてきたりして、文明が滅びた時に自分は人の役に立てるかなーって。

ITエンジニアである私はきっと何の役にも立たずにお荷物になってる様子が明確に想像できたりして。。。
きっと、そういう時に役に立つのは農家や漁師です。大工や保育士、機械技師です。

それだけ大事な、人間の生の根幹に関わる仕事をしている人たちがこんな扱いを受け続けるだなんて、どう考えても間違ってるてのはよく分かる。けど、じゃあ自分たちに何ができるかといえば、なかなか難しくて。
例えば多くの人が適正な価格のものを買うように心がければだんだんと良くはなっていく気もするけど、私もそこまで高い給料もらってるわけでもないし、今日明日のうちに効果が出る話でもないし。。。。。




と、まぁものすごい長文になってしまいましたが、これらは私が偶然の積み重ねから勝手に受け取ったメッセージです。
前述した通り、テロップもナレーションもありません。
恣意的なメッセージは現れません。

でも、絶対に何かを受け取るはずのこの映画、オススメです!

参考リンク

“観察映画”シリーズ想田和弘監督インタビュー 映画『牡蠣工場』で我々が“発見”するものとは | ガジェット通信
監督のインタビュー

(評・映画)「牡蠣工場」 田舎町から世界が見える:朝日新聞デジタル
新聞の映画評

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観察映画1作目のDVD。すごく面白いので超おすすめです。