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明日に向って寝て!

映画とか、本とか、アイドルとか、旅行とか。基本的にネタバレします。

『ロブスター』- 恋愛できない人間は動物よりも役立たず!超管理社会なディストピアをつつむユーモア

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原題:The Lobster
監督:ヨルゴス・ランティモス
製作年:2015年
製作国:アイルランド・イギリス・ギリシャ・フランス・オランダ・アメリカ

あらすじ

独身者は身柄を確保されてホテルに送り込まれ、そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、動物に変えられて森に放たれるという近未来。独り身のデビッドもホテルへと送られるが、そこで狂気の日常を目の当たりにし、ほどなくして独り者たちが隠れ住む森へと逃げ出す。デビッドはそこで恋に落ちるが、それは独り者たちのルールに違反する行為だった。(映画.comより)

キャストと監督

一部の好事家たちの間ではかなり話題になってる感じはしますが、世間的な知名度はちょっと低そうなこの作品、出演者はかなり豪華だったりします。
主人公デイヴィッド役はコリン・ファレル。今回はモテないおっさんの役ということで体重をかなり増量。お腹がパンパンに膨れてて、いつもの渋いイケメンの面影はどこへやら。

デイヴィッドが収容施設内で出会うモテない仲間、"舌足らずの男"と"脚の悪い男"にジョン・C・ライリーベン・ウィショー
ジョン・C・ライリーはともかくベン・ウィショーがモテない役!?って初めは思ったんですが、確かに彼は一歩間違えるとかなり根暗な雰囲気の優男だしなぁ。なんて思ってたらすごくダサい髪型で冴えない"脚の悪い男"を好演。
とはいえ、モテない3人衆の中ではいち早くパートナーを見つけて次のステップに進むので腐ってもやっぱりイケメン。

独身レジスタンスのリーダーはレア・セドゥ。『007 スペクター』でのボンドガール!『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』に出演して一気に知名度を上げて以来、色んな大作傑作に出演しまくりで、トム・クルーズの女優発掘力はんぱねぇな!って感じですね。

デイヴィッドが恋する"近眼の女"役にはレイチェル・ワイズ
最近、彼女の出演作を観てなかったので久々に顔見た気がするんですが、相変わらずすっごい美人でした。確か40代後半じゃなかったっけ・・・?全然そうは見えなかったです。

監督はヨルゴス・ランティモス。
前作『籠の中の乙女』がアカデミー賞ノミネートし、本作ではカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞するという、絶好調のギリシャ人監督。
ランティモス監督の作品については本作と『籠の中の乙女』しか観てないんですが、両方ともすっごく面白かったです。

で、私なりに理解したランティモス監督の三大特徴ってのが、

  1. すごく奇妙で怖い設定
  2.  説明的な演出を省き、ちょっとした台詞や、ちょっと映るだけの小道具や脇役で説明する
  3.  世間が信じてる常識に疑問を投げかけるメッセージ(≒本能への訴え)

の3つです。
本作『ロブスター』でもそれらの要素が満載でしたので、きわめて作家性が高い映画監督と言ってもいいじゃないでしょうか。

奇妙な設定のディストピアを覆うユーモア

本作の設定はとても奇妙なものです。
舞台は近未来のどこかの国。
そこでは独身者はホテルに強制収監され、45日以内にパートナーを見つけることを強要されます
もしパートナーを見つけることができなければ手術によって動物に変えられてしまいます。どんな動物に変えられるかは選ぶことができます。
主人公デイヴィッドは奥さんに逃げられ、この施設に収容されます。
デイヴィッドが収監時に希望の動物を聞かれて答えたのがこの映画のタイトルでもある「ロブスター」です。

ホテルの近くの森にはこの制度に反対する独身者たちが隠れて暮らしています。
収監者たちはこの独身者たちを麻酔銃で狩ることで、捕まえた人数に応じて動物に変えられるまでの期限を延ばすこともできます
デイヴィッドは紆余曲折を得て収容所を逃げ出し、森の独身者たちの仲間になるのですが、そこはホテルとは真逆の恋愛絶対禁止の掟が支配しているのでした。

と、ふざけてるのか真面目なのか全然わからない設定ですが、とにかく超怖い管理社会ディストピアってことだけはよーくわかります。
とはいえ、ここ数年パートナーのいない私は心の底から身震いすると同時に「でもこれ、悪くないかも。こうやって強制的な婚活でもさせられなきゃパートナーなんて見つからないし・・・」と思ってしまったのも事実。

実際映画を観てみるとかなり怖い世界でした。
ホテルも森も前述のような厳しい戒律が支配していて、破ったら手を焼かれたり唇を裂かれたりと酷い苦痛を伴う制裁が待っています。
期限を迎えてしまった"ブロンドの女"は容赦なくポニーに変えられ、森の独身者たちは麻酔銃で撃たれては捕まりどこかに運ばれていきます。
街中で買い物中の女性が職務質問を受けているシーンがあります。理由は「一人でいた」から。
この世界では独身であることが罪なので、街中の人々は必ずペアで行動します。
前述の女性は旦那さんが出張中だったので一人で買い物に来たところでした。

恐怖と圧制が支配する世界を描くこの映画ですが、鑑賞中は劇場から何度も笑い声が上がりました
というのも、この映画全体をユーモアが包んでいて、色々なシーンが笑えるように撮影されているんです。

異性を求める欲求を高めるためにホテルではオナニー禁止です、性欲を誘うために美人メイドによるスマタサービスがあります!ただし、射精は禁止
「こんなの酷い・・・!もう少しだけ続けてくれ・・・」と懇願するコリン・ファレルは物凄く哀れでしたが、笑わずには入れれません。
他にも、ホテル従業員たちによる"なぜ独身でいることが良くないのか講座"や、森の独身者たちによるダンスナイトの様子など思わず噴き出してしまうシーンの連続です。

思わず笑ってしまう。だけども描かれているのはおぞましい管理社会。
恐怖と笑いがミックスされた物語が淡々と進んでいくのはとても奇妙な感覚でした。

嘘の関係が許されない世界

デイヴィッドはホテルで"脚の悪い男"と出会います。
死んだ奥さんも脚が悪かったと語る"脚の悪い男"は、自分も鼻血が出やすいと嘘をついて"鼻血が出やすい女"に近づき、見事カップルとなります。

それを見たデイヴィットは冷酷な性格を演じて"冷酷な女"にアピールし、カップルとなりますが、"冷酷な女"は演技を見抜いてデイヴィッドにまさに冷酷な仕打ちを行います。
その結果、森に逃げざるを得なくなったデイヴィッドは独身者たちの仲間になります。
独身者レジスタンスとなったデイヴィッドは"脚が悪い男"と"鼻血が出やすい女"の部屋に忍び込み、"脚が悪い男"の嘘をばらします。

「嘘の関係」によって破滅したデイビッドは「嘘の関係」を許すことができません
それは他人に対しても、自分自身に対してもです。
目が悪いデイヴィッドは"近眼の女"と恋仲になりますが、ある理由のせいで2人は共通点をなくしてしまいます。
そこでデイヴィッドはある行為にでるのですが・・・
私にはそれが「究極の愛の行動」なのか、「ただの欺瞞」なのか分かりませんでした。

"脚が悪い男"と"鼻血の出やすい女"のその後は描かれません。
もしかしたらデイヴィッドに秘密がばらされたことがきっかけで、別れてしまったかもしれないですし、それでもうまくいったのかも知れません。
でも、じゃあデイヴィッドがばらさなかったら確実にうまくいっていたかと言えば、断言はできないし。。。。

確かに嘘も秘密もない関係は究極の愛の形なのかもしれません。
でも私はそんな関係願い下げです。
相手を傷つけないための、いわゆる優しい嘘ってのは存在してもいいはずだと思います。

う、うーん・・・あの世界に生きていたらあっという間に収監されて、瞬く間に期限を迎えて動物に変えられること必至の恋愛弱者たる私にはいくら考えても答えなんてでないのでした。
金持ちの家で飼われてる犬になりたい。

 強要される"あるべき姿"

この映画ではホテル(=体制)側は結婚こそがあるべき姿として人々に強要します。
対する独身者たちは結婚しないことがあるべき姿だとして独りでいることを強要してきます。(恋愛だけではなく、負傷した仲間を助けることすら禁止)

両極端に寄ったどちらの"強要"も人間的な感情から、もっと言ってしまえば動物的な本能からかけ離れたものであると、私は感じました。
これがあるべき姿だなんて明確な答えなんて存在しないはずです。
物事ってのはグレーのグラデーションで、しかもその濃淡は刻一刻と移り変わっていくものです。
誰かと寄り添いたい夜もあれば、独りきりで過ごしたい昼があってもいいはずです。

こうあるべきっていうの押し付けるなよ。恋愛なんて強要されるもんでも禁止されるもんでもないんだよ。っていう監督のメッセージがこの映画なのかなーって思いました。

周りの友達がどんどんと結婚して行ってしまって、たまぁに間違って「結婚もできない俺は人としてダメなんだ」と思ってしまうこともあるんですが、この映画のおかげですっごく楽な気分になれた気がしました。

参考リンク

Amazon.co.jp: 籠の中の乙女 (字幕版)
アカデミー賞にもノミネートされた、ランティモス監督の前作。こういう、抑圧された人物の本能を覚醒させて、状況を打破していくって話大好きです。

町山智浩 映画『ロブスター』を語る
町山智浩さんにより映画の紹介。

(評・映画)「ロブスター」 怖くて笑える、風変わりな設定:朝日新聞デジタル
真魚八重子さんによる映画評。本作のユーモアについて言及されてます。