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明日に向って寝て!

映画とか、本とか、アイドルとか、旅行とか。基本的にネタバレします。

『ヘイトフルエイト』 - タランティーノ御乱心?後味最悪の極上エンタメ

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原題:The Hateful Eight
監督:クエンティン・タランティーノ
製作年:2015
製作国:アメリカ

あらすじ

イングロリアス・バスターズ」「ジャンゴ 繋がれざる者」のクエンティン・タランティーノ監督の長編第8作で、大雪のため閉ざされたロッジで繰り広げられる密室ミステリーを描いた西部劇。タランティーノ作品常連のサミュエル・L・ジャクソンを筆頭に、カート・ラッセルジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチルティム・ロスマイケル・マドセンブルース・ダーンが出演。全員が嘘をついているワケありの男女8人が雪嵐のため山小屋に閉じ込められ、そこで起こる殺人事件をきっかけに、意外な真相が明らかになっていく。音楽をタランティーノが敬愛する巨匠エンニオ・モリコーネが担当し、第88回アカデミー賞で作曲賞を受賞。モリコーネにとっては、名誉賞を除いては初のアカデミー賞受賞となった。70ミリのフィルムで撮影され、画面は2.76:1というワイドスクリーンで描かれる。(映画.comより)

前置き

いきなり結論めいたことを言うようですが、タイトルの通りすっごく面白かったんですがすっごく後味が悪かった!というのが率直な感想。
ただ、最近はこういう面白いんだけど素直に楽しめないというか、後味が悪い作品によく出会ってる気がします。
『殺されたミンジュ』『マジカル・ガール』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』なんかが、最近映画館で観てすごく後味悪かった作品。どれもすっごく面白かったんだけども。

『殺されたミンジュ』は韓国映画、『マジカル・ガール』はスペイン映画なので後味悪くても、なんかそういうものだと思える気もするんですが、『マネー・ショート』と『ヘイトフルエイト』はどっちもスター俳優揃い踏みのハリウッド映画なのでなんだかちょっと不思議な感じです。
世界的な潮流なのか、はたまた、ただの偶然か。

各国の最新の映画を鑑賞するとこうやって世界の流れ的なものを捉えられる(ような気がする)のもわざわざ1,800円払って映画館に行く理由の1つなのかな、なんて。
これは映画に限った話じゃなくて、本でも音楽でもアートでも、その時代の最新を受け取るというのはなかなか意味深いものであるとわかったような気分になってる次第です。

タランティーノという監督

もはや名実共に一流監督の仲間入りして久しいクエンティン・タランティーノ監督。
その特色を一言で言うなら「圧倒的な知識量と映画愛に裏打ちされたセンス(ただしボンクラ)」になるのかな、って思ってます。

レンタルビデオ店で働いていた頃に浴びるように映画を観ていたというタランティーノ監督ですが、一流監督の仲間入りした今もなお古今東西各国の映画を観まくっているようです。
毎年発表されるのを楽しみにしている映画ファンも多い、タランティーノの映画ランキングにはマイナーな映画がちょくちょくランクインします。

そんな映画愛にあふれたタランティーノ監督ですから、気に入った映画の演出やカット、音楽・・・とにかくなにからなにまで自分の映画にぶち込みまくります。
観る人が観れば「このシーン、あの映画のあのシーンとまったく同じじゃん!」ってことが多々ある、というかほとんどそんなシーンばかりなのですが、それでもパクリだなんだって騒がれないのはその編集センスによるものでしょう。(もちろん、タランティーノの映画ってそういうもんって共通認識があるのも事実)

色んな映画の色んなシーンを組み合わせた結果、全然違うものを生み出してしまう。既存の素材を使っているのに全く新しい、これぞタランティーノとしか言いようがないオリジナリティを生み出してしまうのはまさにその知識量に裏打ちされたセンスの為せる技としか言いようがありません。
結果として生み出されているのが全く新しいものなので元ネタを知らなくたって存分に楽しめるというのもいいところですよね。
元ネタが分かる人だけが楽しいというような演出は皆無で、分からない人はストレートに楽しく、分かる人はニヤリとできるという全然偉ぶってないバランスが超好感。

例えば本作は西部劇なので、色んな西部劇のエッセンスが散りばめられています。アメリカのファインサイトなんか見るとファンたちの分析が事細かに書かれています。
西部劇に明るくない私はほとんど元ネタがわかりませんでしたが、この映画は心底楽しむことができました。
唯一映画観ながら気付いたのは『遊星からの物体X』オマージュ。
カート・ラッセル、雪山、密室というキーワードから鑑賞前から思い浮かべてはいたのですが、中盤にほとんど同じカット割が登場したり、終盤のある展開なんかはほとんど一緒でした。
あとから調べたらBGMもそのまんま使われてたみたいです。

さて、物凄い量の映画観てる人が作った映画というと、高尚で小難しいものになるかというとそんなことはありません。
出来上がった映画は毎回血みどろの馬鹿アクション山盛りの映画だっていうんだから、まさに最高です。
インタビューなんかで「あのシーンはあの映画のオマージュ?」って聞かれると心底うれしそうに「あの映画大好きなんだよ!だから真似しちゃった!」と語るタランティーノに映画ファンたちは日々親近感を増していくのでした。

まさに映画好きの子供がそのまま大人になったようなタランティーノ監督ですが、映画に込めているメッセージはとても誠実で真っ当で立派です
タランティーノ監督の映画では「支配されている側が支配している側に一矢報いる」という構図が多いです。
ジャッキー・ブラウン』『キル・ビル』『デス・プルーフ』はどれも支配される側の女性が支配する側の男をぶっ殺す映画です。
イングロリアス・バスターズ』ではユダヤ人にナチを殺させ、『ジャンゴ 繋がれざる者』では黒人奴隷に白人農場主を虐殺させるなど、歴史のなかで酷い扱いをされた人たちの魂をフィクションの中で救おうとします。
どの映画もクライマックスは支配される側が支配する側に一矢報いるその瞬間で、そのカタルシスたるやいなや!

そんな、どうしようもないボンクラにして心根は誠実な愛すべき映画馬鹿タランティーノの新作『ヘイトフル・エイト』はまさかのカタルシス皆無の後味最悪映画なのでした・・・

 全員悪人!感情移入先が見つからない。

舞台は南北戦争直後のアメリカの雪山。
賞金首デイジーを捕らえた賞金稼ぎジョン・ルースが懸賞金を貰う為に、御者O.Bの荷馬車で街へ移動する途中、立ち往生した黒人マーキスと出会うところから物語は始まります。
迫りくる吹雪から早く逃げたいジョンは交渉の末にマーキスを荷馬車に同乗させます。
同じように保安官クリスも道中で荷馬車に乗せ、吹雪の中なんとか"ミニーの店"に辿り着きます。
ミニーの店で吹雪をやり過ごそうとするのですが、そこには顔馴染みのミニーはおらず、4人の男が同じく吹雪が過ぎ去るのを待っているのでした。

この9人が吹雪を過ぎ去るのをミニーの店で・・・・って、9人
そう、ヘイトフル"エイト"って映画なのに9人いるんです。
おそらく、この"エイト"に数えられていないのは御者O.Gではないかと思います。
登場人物の中で唯一悪人(ヘイトフル)じゃないのが彼だけですし、早々に"映画の中で中間地点を意味するある場所"に座す彼は"エイト"には含まれないのではないかと思います。

さて、御者O.Gだけが悪人(ヘイトフル)ではないということは他の登場人物は全員悪人(ヘイトフル)です。
しかもそこに南北戦争の禍根という火種があるもんだから登場人物たちは全員が全員、これまで聞いたことないレベルで口汚く罵り合います。
南軍の老将軍サンディは黒人捕虜を皆殺しにしたことを自慢し、北軍の軍人として南軍を虐殺した過去を持つマーキスはあるおぞましい行為を告白してサンディを激昂させます。
賞金首デイジーはギャーギャーと騒ぎたて、賞金稼ぎのジョンはデイジーを容赦なく殴りつけます。賞金首とはいえ、手錠をかけられた女性を思いっきりぶん殴ります。
保安官という立場にあるはずのクリスは人種差別丸出しで、黒人であるマーキスを蔑みます。

とにかく全員言ってることもやってることも最低最悪の悪人なので誰にも感情移入ができないまま物語は進みます
それでも面白さを失わないのは、それらの罵り合いがすべて駆け引きになっているからです。
彼らにはそれぞれ隠していることがあり、状況を少しでも自分に有利なものにしようと駆け引きをする様子はまさに一発触発!
各々の思惑と憎しみが渦巻く会話劇の緊張感は観てるこっちが逃げ出したくなるほどでした。

救いのない展開

中盤の展開については省略します。
長くなっちゃうし、ネタバレなし観て欲しいので。
70mmフィルムで撮影された超ワイドな映像は映画館でこそ観る価値があります!
種田陽平が細部までこだわった美術は美しく、巨匠エンニオ・モリコーネの流麗な音楽が場面を盛り上げます!是非に!映画館で!!

以下、ラストの顛末についてネタバレします。





壮絶な殺し合いの末にマーキスとクリスが生き延びますが、彼らも致命傷を受けていて長くはもちません。
死の淵にいる彼らはそれまでの憎しみを忘れ、2人で協力してあることを成し遂げます。
南軍と北軍に別れて殺し合いした過去を持つ彼らが死を目前に、人種の壁を越えて協力しあいます。
でも、それは決して美しいラストではありません。
彼らが協力して成し遂げるのは「デイジーを首吊りにして処刑する」ことだからです。

憎しみ合い殺し合いの末に白人と黒人の男が手錠をかけられた女を吊るして殺す。これがラストです。
このシーンで「いつか白人と黒人が手に手を取り合う未来が来ることを望んでいる」というリンカーンの手紙(偽物ではありますが)が朗読されるのがどこまでもブラックな皮肉です。

今までラストではスカっと爽快な気分にさせてくれていたタランティーノ監督がなぜこんなシニカルで救いようのないラストにしたのか、私にはまだ良く分かりません。

インタビュー記事を読むとタランティーノ監督は西部劇風の『The Iceman Cometh』をやりたかったと言っています。
『The Iceman Cometh』というのはユージン・オニールという劇作家が書いた演劇らしく、ネットであらすじを読んだところ、「氷売りの男が酒場でたむろしている人たちに現実を見せ付けて、彼らが抱いているアメリカンドリームという幻想をぶちこわす」という話だそうです。

クエンティン・タランティーノという氷売りが、今まさに憎しみの連鎖に足を踏み入れようとする世界に、憎しみあってるとこんなことになっちまうぞ!と現実を突きつけてきてるのかもしれません。
うーん、なんだかちょっとタランティーノ監督の精神状態が不安になってしまいます。これが現実に絶望した結果じゃなきゃいいんですけども。

タランティーノ監督がなんの気兼ねもなく、ドカーンと楽しいスーパーボンクラ映画を撮れるように世界が早く平和になればいいんですけどね。

参考リンク

This week's cover: Quentin Tarantino's bloody, brutal 'Hateful Eight' | EW.com
タランティーノのインタビュー記事

The Iceman Cometh - Wikipedia, the free encyclopedia
『TheIceman Cometh』の wikipedia記事。あらすじが読めます。

町山智浩の映画ムダ話22 クエンティン・タランティーノ監督『ヘイトフル・エイト』。 吹雪に山小...
映画評論家 町山智浩さんの有料ラジオ。『The Iceman Cometh』との関連について詳細に話してくれています。

超かっこいい画像

デザイナーの高橋ヨシキさんが作った、超かっこいいフェイクポスター!!
超かっこいい!!!

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