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明日に向って寝て!

映画とか、本とか、アイドルとか、旅行とか。基本的にネタバレします。

『アーロと少年』 - 違う運命を辿った太古の地球の物語で描かれる、西部開拓時代のアメリカ

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原題:The Good Dinosaur
監督:ピーター・ソーン
製作年:2015年
製作国:アメリカ

あらすじ

巨大隕石の墜落による恐竜絶滅が起こらなかったらという仮説に基づき、恐竜が地上で唯一言葉を話す種族として存在している世界を舞台に、弱虫の恐竜アーロが、孤独な人間の少年スポットとの冒険を通して成長していく姿を描いたピクサー・アニメーション。兄や姉に比べて体も小さく、甘えん坊の末っ子アーロは、何をするにも父親がいてくれないと始まらない。そんなある日、アーロは川に落ちて激流に飲み込まれ、家族から遠く離れた見知らぬ土地へと流されてしまう。ひとりぼっちの寂しさと不安にさいなまれるアーロは、そこで自分と同じ孤独な少年スポットと出会い、一緒にアーロの故郷を目指す冒険に出る。(映画.comより)

ウォールト・ディズニー・ジャパンの配給

この映画、なんと日本では字幕上映がありません
憤慨して、数日前に「ピクサーの新作なのに字幕上映がないなんて!」という記事を上げたらそれ以来急にアクセス数が伸びて驚きました。

asunete.hatenablog.com

ほとんどが「アーロと少年 字幕」って検索して辿り着いた人みたいです。
同意のコメント残してくれる人なんかもいて、やっぱりそれだけ字幕で観たがってる人がいるってことなんですよね。

ちなみに上映前にはディズニーの次回作『ズートピア』の予告編が流れたんですが、これがもろに柳の下のドジョウを狙った作りになって、噴飯というか、呆れたというか・・・

アナと雪の女王』の成功が忘れられないってのはよくわかるんですが、あれは『Let it go』という奇跡的なキャッチーさを持った超絶名曲があっての大ヒットなわけで、前情報から判断するに『ズートピア』の売りはそっちじゃないだろうと思うんです。

でも、まぁいいんですよ。宣伝に関しては。
宣伝ってのは私たちみたいな「呼ばなくても勝手に見に来る層」じゃなくて、「きっかけがないと映画館に行かない層」に届けるものなんですから。
どんな素っ頓狂な宣伝しようと、それで映画界隈が盛り上がってくれるならそれは嬉しいことです。

でも、今回みたいに字幕上映を一切なしにして選択の余地すら無くしてまった結果、「字幕上映ないなら観に行かない」って人たちが出てきてしまってるんです。
これは「呼ばなくても勝手に見に来る層」の一部を切り捨ててることに他ならないですよね。
新規顧客獲得も大事なんでしょうけど、既存顧客をあからさまにないがしろにするような商売は本当にどうかと思います。

特にこの『アーロと少年』ではかなり変な名前のキャラクター何人か出てくるんですが、それが日本語訳されてしまっていたので、英語での名前が分からないという弊害がありましたし。
上映館数少なくてもいいのでやっぱり字幕上映はしてほしかったですね。

泣く子も黙るピクサー

世界初の全編CGの長編アニメ『トイ・ストーリー』を世に送り出して以来、世の子供達だけではなく、大人の映画好きたちも魅了し続けるピクサー
基本的にどの映画も超絶ハイクオリティです。

「基本的に」って言ったのはたまーに失敗もするから。
トイ・ストーリー2』『メリダと恐ろしの森』『カーズ2』なんかがよく槍玉に上がります。
とは言え、どれも最低ラインのクオリティはクリアしてますし、他があまりに良すぎるためにちょっとヘマすると余計に悪く見えるという相対的な評価なのかなという気がしなくもないです。
(ああー、でもやっぱり『トイ・ストーリー2』の結末は納得いかなし、『カーズ2』は・・・)

そういう意味だと前作の『インサイド・ヘッド』があまりによく出来過ぎていたので今作はちょっと心配でした。
製作の難航や監督交代劇の話題は聞いてましたし、海外での評価も低くはないにしろ高くもないという状況。

恐る恐る蓋を開けてみたらなんてことない、ちゃんとピクサークオリティでしたよ!
ただまぁ、確かに物足りなさを感じる人もいるだろうなって感じでもあり、レビューサイトの温度の低さに妙な納得をしてしまいました。

超美麗!写実CG

まず腰を抜かすほど驚いたのがCGの描写技術!
流れる川の水や日に当たる葉っぱが、実写じゃないかと疑うほどに超リアル!!!
ピクサーは新作を発表するたびにそのCG技術で驚かせてくれるんですが、今回は今までで一番驚いたかもしれないです。

短編『ブルー・アンブレラ』も写実的CGに挑戦してましたが、あれは夜のシーンでした。
今回はごまかしのきかない昼のシーン中心に90分の写実CGやり抜いたのは本当にすごいことだと思います。
さらにすごいのはその写実的CGの中にキャラクターがいることに違和感がほとんどないこと。
恐竜のアーロは目が大きくて表情豊かで、少年スポットは三頭身。いかにもアニメーションといったキャラクターですが、彼らが実写のような自然の中で走り回る姿と見た時は「ここまで来たか・・・」と鳥肌が立ちました。

ただ、個人的には恐竜たち(特にアパトサウルス)の肌の質感がちょっと気持ち悪く感じてしまったのも事実。
化石しか残っていない恐竜の肌の色や質感は永遠の謎らしいので、いろいろと想像を膨らました結果があの描写なんでしょうが・・・
爬虫類の肌のようなヌラヌラした肌がボヨボヨと動く様はちょっと気持ち悪かったです。

ショッキング!トラウマ映像多数!

自然を写実的に描くCGのは本当に美しいのですが、反面、子供が見たら・・いや、大人ですらトラウマになりそうな超ショッキングなシーンがいくつか登場します。

一つが発酵した果物を食べてしまったアーロとスポットが見る幻覚。
そのあまりにドラッギーな映像にすごく驚きながらも大笑いしてしまいました。
(ただ、思うとディズニーってこの手のドラッギー描写ってたまにやるんですよね。
酒を飲んでしまったダンボが見る幻覚とか、ズオウとヒイタチが蜂蜜を盗みに来るという恐怖にとりつかれたプーさんが見る夢とか。ファンタジアとか不思議の国のアリスとか)

他にも残酷なショック描写があったりとなかなか攻めてました。
子供にはちょっと衝撃的すぎるかもしれません。

変則的な設定と王道なストーリー

設定はかなり変則的です。
舞台は恐竜が滅びなかった地球で、そこでは恐竜たちが知性を身につけ、農業したり放牧したりと文化を築いています。
一方ヒトには知性はなく、一種の動物に過ぎません。扱いとしては犬が一番近いような感じです。

主人公はトウモロコシ農家のアパトサウルス一家の三男、アーロ。
そのアパトサウルス一家が収穫したトウモロコシを食べてしまう害獣が、知性を持たない動物の"ヒト"です。


変則的な設定に対して、ストーリーは王道です。
アーロがある事情から父親を亡くした上に、父親の死の原因となった"子ヒト"とともに家から遠く離れてしまい、帰り着く旅路の途中に様々な困難を乗り越えることで大人へと成長していくというもの。

アーロはスポットを怖がりますが、次第に理解していき、友情を育みます。この関係はまさに少年とペット(もちろん、スポットがペット)です。
(ドリームワークスの『ヒックとドラゴン』の関係性を思い出しました)

つまり、この話は「少年が旅を経て大人へと成長して家に帰る話」であり、「少年とペットの友情の物語」だと言えます。超王道です。
さらに言うなればこれはアメリカの物語でもあります。舞台はパラレルワールドの太古の地球ですが、キャラクターたちの性格を見れば明らかに西部開拓時代のアメリカが描写されていることに気づきます。

この超王道ストーリーにピクサーがどんなツイストを効かせてくれたのか、どれだけ見事な伏線回収を見せてくれるのかと観客は期待したと思います。
しかし、その期待に反して意外とさらっとストレートに話が進んでしまうのが、レビューの温度の低さにつながってるような気がしました。

ちゃんとやってる伏線回収

とは言え、そこはピクサー。よーく観るときちんと伏線回収はしていることがわかります。

アーロは気弱な性格で、何かをやり遂げることができません。
父親はそんなアーロに「怖がらずに、勇気を出してやるべきことをやれ(害獣を殺せ)」と言いつつけますが、アーロは達成できません。
そして、アーロが害獣を殺せなかったことが、父親の死の原因へと繋がってしまいます

その後、失意のアーロはある事件によって害獣であるヒトとともに家から遠く離れてしまいます。
ヒトを怖がりながらも憎しむアーロの前にフォレスト・ウッドブッシュと名のスティラコサウルスが現れます。
彼はツノに多くの小動物を乗せ、それらに"怒り"、"破壊者"、"夢を壊す者"などと名前をつけ、「彼らが"夜にうごめく者"や"非現実的な目標"から自分を守ってくれている」と言います。(吹替だと「夢を壊す者」は「ドウセムリダ」という名前になってました)
この名前の付け方から察するに彼はおそらくネイティブ・アメリカンでしょう。
彼の教えは怖がって何もできないアーロの現状への指摘になっています。

また、彼は、アーロがヒトに"スポット"という名前をつけるきっかけを作り、「名付けたことで絆が生まれた」とも告げます。

フォレスト・ウッドブッシュと別れた後、荒くれ者のプロダクティルスに襲われたアーロとスポットを助けてくれるのがティラノサウルスのブッチ一家です。
ブッチ一家は明らかにカウボーイです。牛を飼い、走りながら「ハイヨー」と叫び、尻尾を振ればムチの音がしますしね。

その勇敢さに驚き、恐怖はないのかと尋ねるアーロにブッチは「怖さを感じるから生き残れる。怖さを受け入れて乗り越えることが大切だ」と教えてくれます。

そして、アーロはその教えを胸に恐怖を乗り越え、憎しみさえしたスポットを自らを危険にさらし得てまで危機から救います

父親の言葉、フォレスト・ウッドブッシュのお告げ、ブッチの教えがそれぞれ呼応して、それがアーロの成長に繋がっていることがわかります。
こう考えると道筋としては丁寧に作られてるんじゃないかと思います。

また、安易な友情オチに落ち着かず、あるべき姿に戻ることを選択するラストには好感を抱きました。

どこかで見たような・・・

ちょっと気になったのはどこかで観たようなシーンが多いこと。
観てる間で思い浮かべたのが『ライオンキング』『ヒックとドラゴン』『ジュラシック・パーク』『ジョーズ』・・・などなど
ピクサーには他で見たことないようなセンス・オブ・ワンダーを期待してたので、どこかで見たことあるようなシーンの連続にはちょっと残念でした。

また、描写としてもちょっと不恰好だなと思ったのが回想シーン。
アーロが父親の死の瞬間を回想するんですが、それがかなり説明的なシーンになっちゃってたのが残念です。
一応、アーロの主観ってことで、実際に父親が死んだシーンよりもダークな描写ではあるんですが、なんかもっと、こう、あったんじゃないの?って気分になってしまいました。

とはいえ、前述した超絶写実CGは劇場で観る価値があります!
字幕上映云々ってのはありますが、映画自体に罪はありません。
是非、この春に映画館で観て欲しい1本です!

短編『僕のスーパーチーム』

ピクサー恒例の本編前の短編上映。
これが今回は超おもしろかった!!いや、超かっこよかった!!!!

鳥肌立ちまくりの超かっこいい映像!!!
アニメの戦闘シーンでこんなに興奮したのは『カンフー・パンダ』以来かもしれません。
こっちも超お勧めです!

参考リンク

アーロと少年|映画|ディズニー|Disney.jp |
公式サイト。前日譚の絵本が読めます。

Disney Wiki - Wikia
翻訳されてしまったキャラの名前なんかはここで調べました。