明日に向って寝て!

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『映画クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』 - ちりばめられた伏線と爆笑ギャグ!涙腺決壊の傑作アニメ

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監督:高橋渉
製作年:2016年
製作国:日本

あらすじ

突如現れた巨大な謎の生き物によって夢の世界にやってきたしんのすけたち。そこでは誰もが見たい夢を見ることができ、風間くんは政治家に、ネネちゃんはアイドルになるなど、皆が楽しい夢の時間を過ごす。しかし、その楽しい時間もつかの間、謎めいた転校生サキの出現により、人々は悪夢の世界に閉じ込められていく。(映画.comより)

しんちゃんという題材

この映画を観ていて、個人的にとても興奮したのが、ゲストキャラのサキの登場シーン。
なんてったって、サキを演じる声優があの『フルハウス』のミシェル役も演じている、川田妙子だったんですから!
つい最近、『フルハウス』全192話を観たばかりで、『フルハウス』って日本でいうと『サザエさん』とか『クレヨンしんちゃん』っぽいなぁなんて考えたところで、まさかしんちゃんにミシェル登場!
単なる偶然なんですが、妙なシンクロに興奮していまいました。

なんで『フルハウス』≒『クレヨンしんちゃん』だと思ったかというと、どちらも日常を圧倒的にポジティブに描いた作品だから。
ネガを内包しつつそれでいて良き日常、良き家族をどこまでもポジに描ききる作風は共通してると感じたからです。

それでいてしんちゃんという題材は放映中のアニメの映画化としてこれ以上ないくらい最適なんじゃないかとも思いました。

まず、普段のアニメで描かれるのは野原一家の日常なので、普段と違う事態に野原一家がてんやわんやしてるだけで出てくる、映画ならではのスペシャル感。
その日常が変貌していく、壊れていくという描写による危機感と恐怖。
どんなに荒唐無稽な展開やアクションシーンがあっても「野原一家なら」と納得できてしまうリアリティライン。
アクションシーンに加え、ギャグ、家族愛、友情など初めから内包してる、映画として盛り上がる要素。

書きながら思ったんですが、これってドラえもんでもほとんど同じことが言えますね。
やはりどちらの作品も、それなりに評価が高いアニメ映画シリーズとしてのベースが整ってるということなんでしょうか。

評価は高いシリーズと言いつつも、もちろん作品によってクオリティに差は出てしまいます。
最近の作品で言えば『ロボとーちゃん』は大好きですが、『引越し物語』はあまり好きじゃないなーという印象。

で、今回なんですが。。。。好きな作品でしたよ!!!!
笑って泣いての本当に楽しい90分を過ごすことができました。
歴代のしんちゃん映画の中でも屈指のクオリティと言っても過言ではないんじゃないでしょうか!

脚本の巧みさ

 本作はとにかく脚本があまりに良くできていて本当に驚きました。
シーンの1つ1つがすべて後の伏線になっているんじゃないかというくらい計算されていて、全くといって言いほど無駄がない作りになっています。

あえて言うなら実在の人物がゲストとしてちょい役と出てくるシーンが不要といえば不要なんですが、まぁこれはしんちゃん映画のお決まりみたいなもんです。
それに今回はそこまで悪くなかったというか、特にとにかく明るい安村のシーンは"悪夢"として面白かったし、あのBGMと「ヘーイ!」の掛け声も相まって笑ってしまいました。
大和田獏のシーンは長すぎましたが。。。ボーちゃんのあのシーンだけにしておけばよかったのに。。。

オープニングタイトル前のシーケンスから脚本は冴えわたります。
映画はひろしが見てる夢から始まるのですが、ここの演出がもうすでに秀逸!
周りのビルとかのディティールが荒くて無色なのに対して、自分と自分と関わる人(と異物たる巨大魚)だけがやけにカラフルで鮮明というのがすごく夢っぽい!
ここでは今回は夢がテーマの話だということを示し、ひろしの欲望を描くことでひととなりを説明しつつ、パンツを脱ぐ脱がないという下品でくだらないギャグを展開しながらもそれら後々の伏線になっているという秀逸さ!!

ひろしが夢の中で巨大魚に飲み込まれたあとは他の家族が見ている夢の描写になってるのですが、ひろしの夢の描写で説明は終えているのでみさえ、ひまわり、シロの順にどんどん夢のシーンが短くなっていき、映画にスピード感が生まれます。
それぞれの夢は短い時間でもパッと見で理解できるような映像的な工夫(イケメンに言い寄られるみさえ、巨大化したひまわり、馬みたいな体型のシロ)がされている上にすべてがギャグになってるという離れ業!!

こんな感じでどのシーンでも後の展開への伏線を張りながら、映像的にも工夫が凝らされていて心底感心してしまいました。
それでいて体感30秒に1回くらいの勢いでギャグが詰め込まれているのに90分にまとまっているんですから、本当によく練られた見事な脚本です。

アニメならではの映像表現

カラフルでポップに描かれた夢の世界、ユメミーワールドはまさにアニメならではの表現!
"夢玉"を変化させることで見たいと思った夢を自由に見ることができるユメミーワールドで、子供たちが思い思いの夢を見るシーンはとても楽しかったです。

反面、私たち大人にとってはなかなか厳しい表現でもありました。
というのも、子供の夢玉は大きく、大人たちの夢玉はとても小さいのです。
今回の敵役、夢彦の目的は夢パワーを集めることなので、夢玉が小さい=夢パワーが少ない大人たちはユメミーワールドを追い出され、悪夢しか見れない世界へと追いやられてしまいます。
この夢玉の大きさというのは想像力や発想の自由さを表したものであると同時に、"可能性"の象徴でもあるんじゃないかと思いました。
実際、作品の中では"寝ながら見る夢"と"将来の夢"があまり区別されることなく描かれます。
こういった抽象的ながらもわかりやすい映像表現というのはアニメだからこその表現だと思いました。

現実的で貧相な夢しか見れない=将来の可能性が少なくなってきてる大人たちを見て、寂しさや焦りを感じたのですが、後半、その小さな夢玉をなんとか駆使して夢彦に立ち向かうひろしとみさえにものすごく勇気付けられました。
クレヨンしんちゃんをテレビで見てた頃はしんちゃんと同世代だったのに、気付けばみさえとほぼ同い年になってしまったのかとしみじみ・・・・

アニメならではの表現は楽しさだけではなく、怖さ表現でも十二分に発揮されています。
ユメミーワールドを追い出されてしまった人たちが見る悪夢のビジョンはとにかく恐ろしかったです。
クレヨンしんちゃんという作品は普段日常を描いている分、こういった日常が侵食されていく描写は本当に怖く感じます。
後半、しんちゃんたちを襲う悪夢のビジョンは映像的にとても恐ろしく、近くに座っていた女の子が手で顔を覆っていたくらいでした。

個人的に物凄く恐ろしかったのがひろしが見る悪夢。
会社だけでなく家族もクビになってしまい、自分ではない別の人物を夫や父として慕う家族を見せられるという拷問レベルの悪夢。。。仕事と家族という2大アイデンティティを奪われたひろしの絶望は想像を絶します。

悪夢で面白かったのはネネちゃんが見る悪夢。
アイドルとして活躍していたはずが、熱愛報道によってファンたちに糾弾されるというもの。
ドルオタたちが打つMIX(タイガー!ファイヤー!サイバー!・・・っていうあれ)が呪詛のように聞こえてくるという描写は、ドルオタの端くれとして爆笑でした。

対立する"子供との接し方"

人々から夢パワーを奪い、悪夢の世界に閉じ込める夢彦の目的は"子供を守る"というものであり、それは野原夫妻の行動原理と同じものでした。
実際、ひろしは夢彦に「お前の気持ちはわからなくもない」と声をかけます。
しかし、夢彦のそれと野原夫妻のそれとでは目的は同じでもアプローチがまったく正反対でした。

夢彦はトラウマを背負ってしまい悪夢しか見れなくなったサキを救いたい一心で行動します。
悪夢や友達といった"サキを傷つける可能性があるもの"をサキから遠ざけ、排除しようとします。
しかし、それはサキの気持ちを無視して自分の理屈を押し付けているだけではなく、サキがトラウマと向き合う機会を奪っているということに夢彦は気付きません。

この親子の断絶の描写はかなりきついものがありました。
子供を守りたいはずが怒鳴りつけ傷付けてしまう夢彦、父親の期待に応えたいがために自分の気持ちを封じ込めて従ってしまうサキという関係性は児童虐待におけるそれを思い起こさせます
夢彦とサキのあまりに杜撰な食事シーンは、のちに野原一家の楽しげなお好み焼きシーンと対比されることで、そのわびしさが浮き彫りになります。

食事だけではなく、子供への接し方も対比されていきます。
大人の理屈を押し付ける夢彦に対し、ひろしとみさえは子供の目線になって接します。
中盤、現実的なことばかり考えていると夢玉をうまく操れないことに気付いたひろしとみさえが童心に返ることでなんとか夢玉を操るという爆笑シーンがあります。
心底笑えるギャグシーンではありますが、同時にひろしとみさえが子供と同じ視点を持てるという表現にもなっているんじゃないでしょうか。

それだけではなく、ひろしとみさえは大人としての責任を果たすことを忘れません。
終盤、親とはなんたるかを説き、無償の愛を示すことでトラウマの原因となった罪悪感からサキを解き放つみさえのシーンは思い出すだけでも涙が溢れ出てくるくらいに感動しました。
また、トラウマの原因となった罪悪感を消し去るのではなく受け入れるというサキの選択に、ただでさえ決壊していた涙腺に鉄砲水が押し寄せたような涙が止まりませんでした。


日本映画のレベルが低いだなんだなんてくだらないこと言ってる暇があったら、大人も子供も笑って泣ける超絶傑作たるこの映画を観にいくってのはどうでしょうか!!
超絶おすすめです!!!