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明日に向って寝て!

映画とか、本とか、アイドルとか、旅行とか。基本的にネタバレします。

『ホームレス理事長 退学球児再生計画(2016年版)』-限りなく狂気に近い善意。。。

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監督:土方宏史
制作国:日本
制作年:2013年

あらすじ

高校を中退した球児たちに再び野球と学習の場を与えるべく設立されたNPO法人「ルーキーズ」の活動を追った、東海テレビ放送によるドキュメンタリー。愛知県常滑市のグラウンドで生き生きと白球を追う元球児たちの姿や監督による熱い指導、そして赤字経営でホームレス状態に追い込まれながらも資金集めに奔走する山田豪理事長の姿を、ありのままに映し出していく。東海テレビで放映された際には、監督が選手に平手打ちする場面を映したことなどから大きな反響を呼んだ。(映画.com)

前置き

この映画の存在自体は知っていたんですが、スポーツに興味がない・・・というか言ってしまえばスポーツが嫌いということもあってよく調べもせずに完全にスルーしていました。
ですが、先日『ヤクザと憲法』『ふたりの死刑囚』というとんでもなく面白いドキュメンタリーを立て続けに観て、一連のドキュメンタリーを手がけてる東海テレビという存在を知りました。 

asunete.hatenablog.com

そして『ヤクザと憲法』の前作にあたる『ホームレス理事長』もとんでもなく面白いという話を聞きつけ、どうしても観たくなったのですが後の祭り。
ディスク化されない東海テレビのドキュメタリーはテレビ放送時か劇場公開時に観るしかないという事実に打ちのめされていたのでした。
しかし、『ヤクザと憲法』の大ヒットもあってポレポレ東中野で本作が特別上映されるという話を聞きつけ、喜び勇んで鑑賞してきました。

評判通り奇跡のような面白さでしたよ!!!

少年たちと池村監督パート

本作は高校を中退した球児たちに再び野球と勉強の場を与え、社会に送り出そうという活動を行うNPO法人ルーキーズをテーマにした映画で、大きく分けて2つのパートで構成されています。
まず1つが高校を中退してしまった球児たちとその指導を行う池村監督のパート。
カメラを恫喝したり、練習中に喧嘩を始めてしまうような「問題児」とそれを厳しく指導する監督というまさにスポ根漫画のようなパート。

このパートでは主に小山君という一人の球児と池村監督にスポットが当たります。
小山君はなかなかにダメな少年で、ちょっと壁にぶつかると全部他人のせいにしてすぐ投げ出してしまいます
高校も野球がうまくいかなかったという理由で中退してしまっています。

映画の序盤、小山君が警察に送られて練習にきます。
池村監督が理由を聞くと親と口論した末に自殺しようとして騒ぎを起こしたと言います。
その次の瞬間、ものすごい勢いのビンタが飛びます。何発も。

劇場内からは「ヒィ・・・!」という叫び声が上がってました。

これには本気で驚きました。
よくこんなのテレビで流したな。。。と。(実際、相当なクレームがあったらしいです。)

しかも、池村監督は以前、高校野球を指導していた経験があるのですが、その時に体罰で逮捕されたという過去があると明かされます。
池村監督自身も球児たち同様再チャレンジャーだったのです。

それを踏まえるとこのシーンはやっぱりすごくて。
逮捕された時の体罰も今回のビンタも間違ってないという池村監督の信念とか、それを放送すると決めた撮影側の信念とか・・・一瞬で圧倒されてしまいました。

個人的には体罰ははっきりとダメな行為だと思っているんですが、そんなのは子供を叱ったこともない、ましてや自殺しようとした10代の少年と向き合ったことなんてない20代の若造の意見でしかなくて。
「もう一回やったら逮捕されようとも拳を使う」と言い放ち、その姿をテレビで放送する許可すらしてしまう池村監督の覚悟には単純に敵わないと、意見の正しい正しくないはとりあえず置いておいて、単純に熱量がまるで違うと思いました。

その後も小山君は新しいバットを買ってもらって喜んでたと思ったら練習に来なくなったり、久々に復帰しても真面目に練習しなかったり、怒られてついつい「野球したくない」と口走ったりと紆余曲折ありながらルーキーズで過ごしていきます。

理事長パート

完全にアウトな理事長

もう1つのパートが山田理事長のパート。
NPO法人のトップがこの山田理事長なんですが、なんというか、要領が悪いというか愚直というか・・・はっきりと愚かすぎるんです。
組織のトップとして、というか社会人として完全にアウトのレベル。

資金集めのためにお店や工場を回って寄付を募るんですが、これが本当にひどい。
全くノープランで飛び込み営業を行う割に会話スキルがほぼ0なんです。
話の内容はあちこちに飛ぶから要領を得ないし、押しが弱くて説得力もない。おまけに滑舌もあまり良くなくて聞き取りにくい。
目前でシャッターを下ろされたり、営業回り中の演歌歌手に逆にCDを押し売りされしまったりと見ていて本当にもどかしかったです。

NPOのミーティングも欠席し、スタッフたちには明らかに苛立ちの色が見えます。

家に帰れば水道、ガス、電気全て止められていて、真っ暗な部屋のベッドの上で夕食代わりにモソモソとバナナを食べだすシーンは見ていられませんでした。
最終的にはその家も追い出され、漫画喫茶に寝泊まりし始めます。

理事長の慟哭

そんな理事長がある日、15時までに振り込まないといけない金額が集まってないといつもに増して焦りながら資金集めをし始めます。
追い詰められた理事長はなんと撮影スタッフに「お金を貸してくれ」と土下座をし始めすのです。

このシーンの空気感は言い表しようがなくて。確実に断言できるのはドキュメンタリー映画史上に残る屈指の衝撃的シーンであるということ。
あまりに予想外過ぎる展開を目の当たりにしてしまったスタッフの動揺がそのまま映像として残っているのです。
カメラは揺れ動き、音声スタッフは撮影を忘れてマイクを下げてしまいます。
土下座の瞬間、大きく動揺する撮影スタッフたちの影をカメラが捉えています。

この世の地獄のようなシーンなのですが、行き過ぎた悲劇は喜劇になりえます。
劇場からは乾いた笑いが漏れていました。

しかし、スタッフが「被写体に状況を変化させてはいけないというドキュメンタリーのルールに基づき貸すことができない」と説明してからまた空気が変わります。
「自分には一体何が足りないのか」と理事長が号泣し始めるのです。
世の中を良くするために全てを捧げて頑張っているのに、伝わらない。わかってくれる人はどこかにいるはずなのに。悔しい」と慟哭します。

シーンが変わり、理事長の手には札束が握られています。
闇金から借りたと笑いながら言う理事長に「危なくないのか」と撮影スタッフは問います。
すると理事長は「何が危ないんですか?あの子達の居場所がなくなって、守ってやれなくなることの方が危ないんです」と即答します。

このシーンには衝撃を受けました。
一瞬にして全身に鳥肌が立ちました。

このシーンではいろんな感情が一気に押し寄せたのですが、その中に確実に"恐怖"がありました

限りなく狂気に近い善意

池村監督は再度逮捕されるかもしれないというリスクを背負いながらも、自分が正しいと信じた指導で球児たちを導こうとします。
山田理事長は穴の空いた靴を履き、今にも千切れそうな取っ手の鞄を持って駆けずり回った挙句に家すら失ってしまいます。

山田理事長と池村監督は文字通り全てをルーキーズの少年たちのために捧げています。

彼らの途方もない善意に私は心打たれ、感動し、尊敬すると同時に恐怖しました。そこに狂気めいたものを感じ取ってしまったからです。

私も困ってる人がいたら助けたいし、世の中がもっと良くなればいいと思ってます。
だからボランティアもしますし、募金もします。
でもそれはあくまで自分の生活を脅かさない程度です。
映画や本を買うのを我慢するような額の募金はしないですし、日程が被るならボランティアよりもアイドルのライブを優先します。ましてや衣食住に影響ができようなことは行いません。

しかし、彼らにはそのブレーキがかからないのです
全身全霊すべてを他人のために捧げるその姿が完全に私の理解の範疇を超えてしまったので、怖かったんです。

山積みにされたままの問題

その後も山田理事長の問題行動は続きます。
給料未払いに耐えかねた若いスタッフがカフェで退職を願い出るのですが、そこの支払いをそのスタッフにさせたり。
費用削減のために子供達から一番信頼されてる池村監督をリストラしようとしたり
池村監督解雇に抗議する親御さんたちに説明を求められてもしどろもどろだったり。

チームも相変わらず弱小のままで全然勝てないままです。
数々の問題が山積みのまま、映画は終わってしまいます。

それでもこの映画のラストに眩いまでの希望があるのは楽しそうな球児たちの姿が映し出されているから。
撮影開始当初にカメラを恫喝していた彼も、喧嘩を始めてた彼も、笑顔で「楽しい」「幸せだ」と話すんです。
あの小山君もブツブツ言いながらも結局は野球を続けています。

パンフレットや上映後のトークショーによると、その後紆余曲折ありながらもNPOは継続しており、卒業生は大学に進学したり就職したりと見事に社会復帰を果たしているそうです。

はっきりと問題が多い団体だと言い切れるんですが、それでも行き場を失ってしまっていた子供達に居場所を与え、高卒資格も取らせて、見事に社会に戻しているという事実は本当に本当に素晴らしいと思いました。
山田理事長は「今の世の中には、電車に乗り遅れてしまった子供に"じゃあ歩いて行こう"と一緒に歩いてくれる大人がいない」と言います。
様々な問題を抱えながらも子供達と共に歩き、目的地まできちんと送り届けてあげてる山田理事長は本当にすごい人だと思います。

趣味のために散財して、時間もお金もほぼ100%自分のためだけに使ってる自分を反省しつつ、いろんなことを考えさせられました。
すごく笑えるシーンもあるし、めちゃくちゃ考えさせられるので、機会があったら是非観てみて欲しい映画です。
前述の通りディスク化の予定はないらしいですし、体罰のシーンのせいで地上波では放送できないらしいので、機会があるのなら絶対見逃さないで欲しいです!!

関連リンク

NPO法人ルーキーズ|高校転校支援・硬式野球再チャレンジ支援団体
ルーキーズの公式サイト。これを見る限り軌道に乗り始めているよう。

【Interview】『ホームレス理事長 ~退学球児再生計画~』阿武野勝彦プロデューサー インタビュー | neoneo web
プロデューサーのインタビュー記事。